利用者争奪戦
精神障害者は病状を安定させたり、回復して働けるようになるために病院やデイケア、支援センター、作業所、授産施設などに通っていると思います。そして、そのニーズに応えるために各機関の各専門職は働いているわけですが、利用者のニーズ以外にも応えなければならないことがあります。
それは所属する機関の利益です。
例えば製造業であれば、消費者のニーズに応えられる製品を開発して販売するというのが仕事になると思います。そして消費者からは製品の対価としてお金をもらい、それが会社の利益となります。つまりここでは消費者のニーズに応えることが会社の利益に直結します。
しかし、医療並びに福祉分野は少々事情が違ってきます。病院では患者を治療することが医師の仕事ですが、病気が完治し、みんなが健康になったら仕事がなくなってしまいます。デイケアでは長期入院などによって失われてしまった生活能力(日常的な家事や他者とのコミュニケーション方法など)を取り戻し、自立した地域生活を送れるようにプログラムなどを通して助言、指導していくことがデイケアスタッフの仕事になりますが、ここでも利用者がいなくなればデイケア運営は成り立ちません。勿論、良い治療行為が次の患者(=顧客)を呼ぶことに繋がるのではないかとの意見もあると思いますが、そもそも治療により健康を提供したいと思っている医療従事者が病気の人を待ち望まなければならない、つまり病人がいなくなると仕事が成り立たないという状態に大きな矛盾を感じてしまいます。同様に、作業所には様々な役割と種類がありますが、大まかに分ければその役割は日中の居場所提供と就労支援ということになると思います。作業所での作業などを通して社会性を身に付け、一般就労へ移行していくというのが多くの利用者のニーズであり、そのニーズに応えることが作業所職員の仕事ですが、ここでもまた利用者数が減れば作業所運営は成り立たなくなります。つまり、医療や福祉の現場ではクライエントのニーズに純粋に応えていくことが所属機関の不利益にも繋がるわけです。勿論、だからと言ってお金儲けのために患者の話をまともに聞かず、3分診療ならぬ30秒診療で診察を終えたり、必要のない薬を出し続けたり、「社会生活能力に関係はないけれど利用者に人気があるから」という安易な理由で利用者を増やすためにカラオケや外食会などのプログラムを増やしたり、「他の利用者に悪影響を及ぼす恐れがあるから」ともっともらしい理由をつけて人格障害など特定の患者を受け入れなかったり、「もうこの利用者は一般就労できるけど、いなくなると作業所の作業に支障が出るから」と就労支援を怠ったり、逆に「他の利用者の就労意欲を削ぐし、納期に間に合わないから」と作業能力の劣る利用者を排除しようとしていいわけではありません。それぞれの専門職が倫理規定に基づいて職務を全うしているはずです。
でも……。
障害者自立支援法には、各機関が障害者を奪い合うような仕組みがあるのではないかと感じます。

